「多くの認知症の患者さんを殺しました。」
ショッキングなタイトルだがこれは事実である。
ただし、患者を殺している犯人は個人としての医師ではなく「日本の認知症医療」のあり方そのものである。
開業医はもちろん大学病院の認知症外来の中にすら「殺し」に加担している医師が少なからず存在する。患者やその家族は、医師の治療を「改善」への切符と思っているが、実は、「再起不能への直行切符」「死への片道切符」かもしれないという惨状である。
なぜそんな事態になっているのか?
まず、医師の多くは認知症の正しい診断ができないという驚くべき現実がある。
4大認知症の他にもさまざまなタイプや混合型あることに知識も関心もない医師たちの間でいいかげんな診断が日常化している。その結果、出された薬が正しいと信じ込んだ患者はたいへん苦しむことになる。
たとえば、レビー小体型認知症であるにもかかわらずアルツハイマー型と誤診され、ドネペジルという薬を投与された患者は、歩けなくなったり、ひどい場合は寝たきりになってしまう。逆に、怒りっぽいタイプのアルツハイマー型や、ピック病と呼ばれる興奮性のある患者にドネペジルを飲ませると、手がつけられないほど暴れることがある。
さらに「被害」を拡大・助長しているのが、認知症中核薬の「増量規定」である。
一定の服薬期間が経過すれば、増量しなければならない――。
「増量規定」に忠実な医師の処方により、体格や症状を無視して一律に薬を増やされた患者は苦しむことになる。
かつての著者も、疑いもせず真面目に「増量規定」に従い、多くの患者を苦しめていた。しかし、『名古屋フォレストクリニック』の河野和彦医師が提唱する「コウノメソッド」との出会いを契機に、「殺し」に加担する医師から脱出、認知症患者とその家族を救うべく日々活動を続けている。
コウノメソッドなら、重度の患者でも自宅療養ができたり、終末期とされていた患者を救えるケースもけっして珍しいことではない。
間違った治療で苦しむ患者さんと家族にコウノメソッドを知ってほしい。
認知症の治療にかかわる多くの医師にコウノメソッドを知ってほしい。
コウノメソッドの考え方が少しでも世に広まり、一人でも多くの認知症患者さんが救われるようにしたい。そして、かつての自分のように、患者さんの「殺し」に加担するような医師をなくしたい――。
そのような熱い思いから本書は生まれた。